事業を始める際、個人事業主として営業を開始し、軌道に乗ってきたら「法人成り」を考える、といった話を聞いたことはないでしょうか?

個人事業主が法人を設立し、営業主体を法人に切り替えることを「法人成り」と言います。

一見するとただ名義を変えただけですが営業上、税務上は大きな変化をもたらします。

ここではその「法人成り」のメリットとデメリットをご説明します。

〇売上、利益の観点

個人事業主には所得税が課せられます。所得税の税率は5%~45%で、稼げば稼ぐほど税率が高くなっていく仕組みです。一方、普通法人の法人税の税率は、利益が800万円以下は15%、それ以上は23.2%です。これに地方税まで考慮すると法人の税率は36%くらいになります。

つまり、個人事業主として利益を伸ばしていき、ある一定の利益を超えると、法人化した方が税金を抑えることができます。

所得税の税率は900万円を超えると33%となるので、個人事業主としての利益が800万円~900万円くらいになったなら、そのタイミングが、法人化を検討するベストなタイミングと言えるでしょう。

〇消費税の観点

先のページでも触れたように、売上が1000万円を超えると、その2年後から消費税課税事業者となり消費税を納めなければなりません。これは、個人事業主でも法人でも同じです。この制度を利用して、法人化することにより消費税の納税を先に延ばすことができます。

つまり、個人事業主として事業を始め、年間の売上高が1000万円を超えた場合、本来ならその2年後から消費税の納税義務が発生します。しかし、1000万円を超えたその翌年に法人化することにより、さらに最低2年は消費税の納税が免除されることになります。

赤字でも大きな納税額が出ることもある消費税は、2年間免税期間を延ばすだけでも納税額に大きな差が出ることもあります。

免税事業者から課税事業者に切り替わるタイミングでちょうど法人成りを検討していれば、消費税が法人成りの後押しをすることもあるでしょう。

〇社会保険加入の観点

これも際のページでも触れたとおり、健康保険や厚生年金などの社会保険について個人事業の場合、特定の業種で5名以上雇用している場合を除いて加入義務はありません。

飲食業はこの特定業種に含まれていないため、個人事業主として営業している限り社会保険の加入義務は発生しないこととなります。

一方、法人化すると雇用している人数に関わらず、強制加入になります。

社会保険は、個人事業主が加入する国民健康保険や国民年金よりも手厚い補償となっているため、従業員にとっては法人化によって社会保険に加入することはメリットのひとつとして挙げられます。

しかし、経営者としては従業員分の社会保険料も法人で負担する必要があるため、法人化によって人件費の負担が重くなるというデメリットも生じます。人件費が多くかかる業種の場合は、社会保険の金額的負担も大きくなり、資金面にも大きく影響するのでこの点には注意が必要です。

〇社会的信用が得られる

一般的に、個人よりも法人の方が信用力は高いと言えます。中には取引先を法人に限定している企業もあるほどです。

ただ、飲食店は主に法人名というよりは店舗名(屋号)で営業をし、顧客も一般個人客がメインとなるため法人化による信用が営業上影響することは少ないでしょう。

ただ、従業員の採用の際には、信用力の面で個人事業より法人の方が人材を確保しやすくなる可能性はあります。

また、上記の通り個人の飲食店は社会保険に加入していないことが多く、逆に法人は加入が必須となるため、待遇面から社会保険に加入している法人経営の飲食店に人材が集まる可能性もあります。

〇法人化のメリット・デメリット

個人事業から法人化することで、会計処理や事務処理などの業務が多くなったり、社会保険料の負担が増えたりするなど、業務の面や費用の面で個人事業よりも負担が増える点は否めません。

しかし、規模が大きくなればなるほど、法人化することによる節税メリットは大きく、さらに事業を拡大していくなら、法人化して社会的信用度を高めることも大切です。

個人で事業をしているのであれば、いつ法人化するかを考えながら事業を進めてみてはいかがでしょう。

なお、個人から法人成りをした場合、飲食業許可も法人で取り直す必要があります。

忘れずに手続きを済ませておきましょう。